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第3回:「性暴力」とは?「不適切な行為」とは?

  • 投稿:2026年05月08日
  • 更新:2026年05月09日
第3回:「性暴力」とは?「不適切な行為」とは?

放課後等デイサービス・児童発達支援の現場では、身体接触を伴う支援が日常的に行われています。では、日本版DBS(こども性暴力防止法)でいう「児童対象性暴力等」と「不適切な行為」は、どこで線引きされるのでしょうか。本記事では、こども家庭庁ガイドラインをもとに、トイレ介助・着替え・パニック時対応など、障害児通所支援事業所で実際に起こる場面を例に、療育現場で気をつけるポイントをわかりやすく解説します。

~療育現場で気をつけるポイント~

こども性暴力防止法、解説シリーズ、第3回です。

今回は、放課後等デイサービスや児童発達支援の経営者様、そして児童発達支援管理責任者の皆様が、今まさに一番頭を悩ませているポイントについてお話しします。

「療育現場ってどうしても身体接触が多いけど、どこからがアウトなの?

 「トイレ介助や着替えのお手伝いも、性暴力って言われちゃうの?

「パニックのお子さんを抱きかかえて止めるのは、大丈夫?

そこで今回は、こども家庭庁のガイドラインをもとに、法律上の「児童対象性暴力」の定義と、今回新しく決まった「不適切な行為」について解説します。

何がダメで、何がOKなのか。一緒に確認していきましょう!



法律が定める2つの「NGライン」

まず知っておいていただきたいのが、この法律(こども性暴力防止法)では、防ぐべき行為を2つの段階(レッドカードとイエローカード)に分けて考えている、ということです。

🟥 児童対象性暴力等(レッドカード)
刑法などの犯罪行為はもちろん、犯罪を構成しない場合でも、子どもの性的自由や尊厳を侵害する重大な行為です。

🟨 不適切な行為(イエローカード)
児童対象性暴力等には至らないものの、性暴力につながるおそれがある行為や、子どもの尊厳を傷つける行為です。

今回の法律のすごく大きなポイントは、犯罪行為(レッドカード)だけでなく、その手前にある「不適切な行為(イエローカード)」についても、事業所として防止策を講じなさい(研修やルール作りをしなさい)と義務付けた点にあります。

「犯罪じゃないなら、いいんじゃないの?」 そう思われるかもしれません。

でも、性暴力の加害者は、最初からいきなり犯罪を犯すわけではないんです。 徐々に子どもとの距離を詰め、特別な関係を作って支配していく……いわゆる「グルーミング」という段階を経てから、犯行に及ぶケースが非常に多いのです。

だからこそ、現場のリスク管理としては、犯罪が起きる前の「不適切な行為(イエローカード)」の段階で、いかに気付き、防ぐことができるか。これが最大の鍵になります。


レッドカード:「児童対象性暴力等」とは?

ここは「絶対に許されない性暴力」の領域ですので、簡潔に整理します。ガイドラインでは、刑法等に触れる犯罪行為をはじめ、以下のような子どもへの重大な加害行為が「児童対象性暴力」として定義されています。

  • 不同意性交等・不同意わいせつ(刑法)
  • 面会要求等・淫行(児童福祉法)
  • 児童ポルノの製造・提供(児童ポルノ禁止法)
  • 盗撮・痴漢行為(撮影処罰法・条例等)

これらは、「療育の一環」などという言い訳が通用しない重大な行為です。疑いがある場合には、子どもの安全確保を最優先に、事実確認を行い、必要に応じて警察・児童相談所・所轄庁等の関係機関へ相談・通報する対応が求められます。


イエローカード:「不適切な行為」の定義(ここが一番悩みどころです!)

経営者様が就業規則やマニュアルを作るときに、一番頭を抱えてしまうのが、この「不適切な行為(イエローカード)」の線引きではないでしょうか?

「どこまで厳しく書けばいいの?」

 「がんじがらめにしたら、職員が働きにくくなるんじゃ…」

そんな悩みにお答えするために、国のガイドラインでは、児童対象性暴力等につながるおそれのある行為や、子どもの尊厳を傷つける行為について、具体例が示されています。一つずつ、現場のリアルな場面を想像しながら確認していきましょう。

① 性的な言動(セクシャル・ハラスメント)

まずは言葉の暴力、セクハラです。 具体的にはこんなことが当てはまります。

  • 子どもの身体つき(胸やお尻など)を話題にする。
  • 「彼氏はいるの?」「初体験は?」なんて、性的な経験をズケズケと聞く。
  • 性的な冗談や、からかい半分で下ネタを言う。

※性的な言動についても、その内容・態様・継続性等によっては、単なる「不適切な行為」にとどまらず、「児童対象性暴力等」に該当し得る場合があります。

② 不必要な身体接触 次に、身体接触の問題です。 例えば

  • 正当な理由なく、子どもの身体に触れる(必要以上に肩や背中、髪の毛を触る、執拗にくすぐるなど
  • 必要以上に長時間抱きしめる
  • 添い寝をする

などが挙げられます。

🚨【児童対象性暴力等に該当し得る重大な行為】 なお、「水着で隠れる部分(プライベートゾーン)」を正当な理由なく触る行為や、「キスをする」といった行為は、単なる「不適切な行為(イエロー)」にとどまらず、「児童対象性暴力等」に該当し得る重大な行為です。

事業所内では、「絶対に許されない行為」として、服務規律や研修等を通じて厳格に周知する必要があります。

③ 私的な関係性の構築(プライベートな接触)

3つ目は、仕事の枠を超えたお付き合いです。

  • 業務時間外に、個人的にLINEやメール、電話をする。
  • お休みの日に、二人きりで会う。
  • 個人的にプレゼントやお小遣いをあげる。

④ 密室化・閉鎖的な状況の作出

最後は、場所の問題です。

  • 正当な理由なく、子どもと二人きりの状況を作る。
  • 死角になる場所や、鍵のかかる部屋に二人でこもる。

【障害福祉現場のQ&A】トイレ介助・着替え・パニック対応の境界線

ここからが本題です。 障害児通所支援事業所では、身体介護や身体接触が日常業務です。

ガイドラインは、これら全ての接触を禁止しているわけではありません。 「正当な業務(療育・看護・介護)」「不適切な行為」を分ける基準はどこにあるのでしょうか。

Q1. トイレ介助やおむつ交換は「不適切な行為」になりますか?

A. 業務上必要な範囲で、適切な方法により行われる介助であれば、直ちに不適切な行為に当たるものではありません。

ガイドラインでも、医療行為、看護、介護、療育上必要な介助は、性暴力等の対象外であることが明記されています。排泄介助は、子どもの健康と尊厳を守るために不可欠な業務です。

【現場での対応ポイント】

  • 「必要性」: その子にとって介助が必要か(自立支援の観点)。
  • 「説明」: 黙って触るのではなく、「おむつを替えるね」「お尻を拭くね」と声をかける。
  • 「透明性」: 可能であれば複数の職員で対応する、あるいはドアを少し開けておく(プライバシーに配慮しつつ、密室にしない)等の工夫を行う。
  • 「記録」: 排泄記録をつけることは、業務として行ったことの証明になります。

Q2. 着替えの手伝いで、裸を見ることは問題ですか?

A. 業務上必要であれば問題ありません。

ただし、不必要に裸の状態を長くさせない配慮が必要です。 「着衣失行(服の着方がわからない)」などの特性がある場合、支援として着替えを手伝うことは正当な業務です。

【現場での対応ポイント】

  • 「手順」: 全裸にさせず、上を着てから下を脱ぐなど、露出を最小限にする手順(カーテンの使用など)をマニュアル化する。
  • 「視線」: じろじろ見たり、身体特徴を口にしたりしない。

Q3. パニック時に暴れる子を抱きかかえて止めました。身体拘束や不適切な接触になりますか?

A. 自傷他害の恐れがある緊急時の対応は、正当な業務です。

子どもが自分を殴ったり、他のお子様に飛びかかったりする場合、職員が身体を使って止めることは「安全確保義務」として必要です。これを躊躇して怪我をさせてしまっては本末転倒です。

【現場での対応ポイント】

  • 「緊急やむを得ない場合」に限定する。
  • どこをどう抑えるか(関節を極めない、胸部を圧迫しない等)の安全な手法を研修しておく。
  • 対応後、必ず「ヒヤリハット・事故報告書」に記録を残し、保護者に報告する。「隠れてやった」と思われることが最大のリスクです。

Q4. 泣いている子を慰めるために抱っこするのは?

A. 年齢や状況に応じた適切な範囲であれば問題ありません。

未就学児や、精神的に不安定になっているお子様へのスキンシップは、安心感を与えるための重要な支援技術です。しかし、ここに「職員の主観」が入るとトラブルの元になります。

【現場での対応ポイント】

  • 「過度ではないか」:必要以上に長時間抱きしめたり、常に膝の上に座らせ続けたりしていないか。
  • 「公平性」:特定のお気に入りの子だけを特別扱い(抱っこ)していないか。
  • 「公開性」:できるだけ他の職員の目が届く場所で行う。

「わいせつ目的」じゃなくてもアウト? グルーミングとは?

経営者の皆様に、これだけは絶対に知っておいていただきたい言葉があります。

それが「グルーミング」です。

これは、加害者が子どもを手なずけ、精神的に支配して、抵抗できない状態にしていく行為のことです。

実は、一番怖いのはここなんです。 加害者の多くは、「自分は子どもを愛している」「僕とあの子は特別な関係なんだ」と本気で思い込んでいて、自分でも「わいせつ目的」であることを否定するケースが非常に多いんです。

例えば、こんな言い訳をする職員さん、いませんか?

  • 「あの子は家庭で寂しい思いをしているから、僕が特別に優しくしてあげなきゃいけないんだ」
  • 「これは指導の一環としてのスキンシップですよ」
  • 「二人だけの秘密のやり取りが、あの子の心の支えになっているんです」

「特定の児童との私的な境界線を越える行為」そのものを、「不適切な行為」としてルールで禁止する。これしか、エスカレートを防ぐ方法はありません。

ガイドラインで「連絡先の交換」や「私的なプレゼント」が禁止されているのは、単なるマナーの問題ではありません。この「グルーミングの入り口」を、物理的に塞ぐためなのです。


まとめ:現場を守るための「基準」作り

今回は「性暴力」と「不適切な行為」の境界線について、少し踏み込んだお話をしました。 最後に、今日の大事なポイントを振り返りましょう。

  1. 「不適切な行為」も規制対象です 直接的な性暴力に該当しなくても、性的な冗談、いらないボディタッチ、プライベートな連絡、密室を作る行為……これらは全部NGです。
  2. 療育・介助の注意点 トイレ介助、着替えの手伝い、危険な時の身体確保。これらは子どもを守るための「正当な業務」です。
  3. 「透明性」と「記録」があなたを守ります 密室を避ける工夫をしたり、業務記録をしっかり書いたりすること。これがいざという時に、適切な支援として行っていたことを説明する重要な記録となります。
  4. 「特別扱い」を見逃さないで 特定の先生と、特定の子だけが妙に近い……。「あの二人は特別だから」と放置するのは、リスクの始まりです。

放課後等デイサービスや児童発達支援の素晴らしいところは、まるで家族のような、温かい関係性が築けるところですよね。 でも、だからこそ「プロとしての線引き」必要なんです。

さて次回は、いよいよ具体的な手続きの話に入ります!

第4回:いつ・誰に・どうやってチェックするの?(犯歴確認の実務フロー)

「システムの使い方は?」「急に人が辞めて、明日から人を雇いたい時はどうするの?」 そんな現場のリアルな疑問に、お答えしていきます。


※本記事は、2026年1月時点のガイドラインを基に作成しています。個別のケース判断に迷う場合は、所轄庁や専門家にご相談ください。


関連記事(予定)

  • 第1回:日本版DBSとは何か(公開中)
  • 第2回:ウチの事業所は対象?(公開中)
  • 第4回:犯歴確認(DBSチェック)の実務フロー
  • 第5回:日頃から行うべき「未然防止・早期把握」
  • 第6回:もし疑いが生じたら? 万が一の対応
  • 第7回:犯歴があったら解雇できる?
  • 第8回:情報管理と今後の準備

この記事の監修者について

 千葉 直子
 あいまり行政書士法人 代表・行政書士。
障がい福祉分野に特化し、障害福祉事業所の開設支援、顧問対応、運営指導・監査対応、法改正対応などを中心にサポートしています。制度理解にとどまらず、現場実務と法令遵守を見据えた実装支援を強みとしています。

経歴

2021年8月 とおる行政書士オフィス設立
2023年3月 あいまり行政書士オフィスへ事務所名変更
2024年7月 あいまり行政書士法人として法人化

情報発信

SNS・YouTube等の発信一覧はこちら

その他、セミナー・執筆活動を行っています。

「法令と実務事例解説セミナー」

 障害福祉制度・運営実務セミナー

「就労継続支援B型開業実践講座」・「児発・放デイ開業実践講座」

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